はじめに:なぜPMにユーザーインタビューが必要なのか

プロダクトマネージャー(PM)の仕事は、ユーザーにとって「本当に価値のあるもの」を見つけ、それを形にすることです。しかし、PM自身が「これは良い」と思って作ったものが、実際にはユーザーにとって使いにくかったり、そもそも必要とされていなかった……というケースは少なくありません。
たとえば、チームで「便利な機能だ」と確信してリリースしたのに、ユーザーからはほとんど使われなかった、という経験はPMなら一度はあるはずです。そんなとき、「事前にユーザーに話を聞いておけばよかった」と感じることもあるでしょう。
そこで役に立つのが「ユーザーインタビュー」です。実際のユーザーに直接話を聞くことで、彼らの本音や悩み、期待していることを深く知ることができます。
アンケートやアクセス解析では、ユーザーの行動は数値として見えますが、「なぜそうしたのか」という理由まではわかりません。インタビューは、その“背景”にある感情や意図を深掘りするのに最適な手法です。
初心者PMこそ、ユーザーの声を聞く体験を小さなところから積み重ねることが大切です。それがやがて、プロダクトづくりの判断力や視野を広げてくれるのです。まずは一歩を踏み出してみましょう。
ユーザーインタビューとは?その基本と価値
ユーザーインタビューとは、1対1の会話を通じてユーザーの考えや行動を深く理解するための定性調査です。「どんなことに困っているのか」「なぜこのサービスを選んだのか」「どうやって使っているのか」など、ユーザー視点でのリアルな声を引き出すことができます。
アンケートのように決まった選択肢を選ばせるのではなく、自由な会話の中でユーザーが自分の言葉で話すことで、より深い気づきを得られるのが特徴です。
ユーザー自身も気づいていなかった不満や、「なんとなく使いにくい」といった感情が表に出ることもあります。そうした情報は、プロダクト改善のための貴重なヒントになります。
私が初めてインタビューに挑戦したのは、PM研修の一環でした。最初は「何を聞けばいいんだろう」と緊張しましたが、実際に話してみると、ユーザーが「ここがちょっと使いにくい」「こういう機能があるといいかも」と素直に話してくれて、思わぬ気づきをたくさん得られました。
インタビューの目的は、正解を見つけることではなく、“ヒント”や“気づき”を集めることです。その積み重ねが、ユーザーに寄り添ったプロダクトづくりにつながっていきます。
ユーザーインタビューの5ステップ
ステップ1:目的を決める
まず「何を知りたいのか」を明確にします。例:「新機能が使われない理由を知りたい」「ユーザーが登録時にどこでつまずいているか知りたい」など、なるべく具体的な目的を設定しましょう。
ステップ2:対象ユーザーを決める
目的に合ったユーザー像を考えます。例:「最近使い始めた人」「長く使っている人」「途中で離脱した人」など。誰に話を聞くかによって、得られる情報の質が大きく変わります。
ステップ3:質問を準備する
ユーザーの行動や気持ちを引き出すには、“オープンクエスチョン”が効果的です。たとえば「どんなときに使いましたか?」「そのときどう感じましたか?」など、背景や理由を掘り下げられるような質問を用意しましょう。
ステップ4:インタビューを実施する
リラックスした雰囲気を大切に。無理に答えを急がせず、うなずきや相づちを交えながら自然な会話を意識しましょう。沈黙も怖がらず、相手のペースに合わせて進めるのがポイントです。
ステップ5:内容を整理・共有する
インタビュー後はすぐに内容をメモやシートにまとめ、印象に残った発言や共通点を整理します。複数のユーザーの声を比べることで、重要な気づきが浮かび上がってきます。チームで共有し、プロダクト改善に活かしましょう。

質問例:こんなふうに聞けばいい!
以下は、実際のインタビューで使いやすい質問例です。会話の流れに合わせてアレンジしましょう。
質問内容 | 目的 |
---|---|
このサービスを知ったきっかけは何でしたか? | 認知経路を把握する |
初めて使ったとき、どんな印象を持ちましたか? | 初期体験を知る |
どんな場面で使うことが多いですか? | 利用シーンの把握 |
使っていて困ったことはありますか? | 不満や課題の発見 |
そのとき、どう感じましたか? | 感情の深掘り |
さらに、「もう少し詳しく教えてもらえますか?」「それはなぜですか?」といった追加質問で、内容を掘り下げるとより効果的です。
成果事例で学ぶ:インタビューが変えたプロダクト
家具メーカーのサイト改善事例
ある家具メーカーでは、「価格が表示されていないために購入をためらうユーザーが多い」という仮説をもとにインタビューを実施しました。ところが、実際に聞いてみると「どう選べばいいかわからない」という声のほうが多かったのです。
その結果、自宅写真に合った家具選びをサポートするコンテンツを追加。カタログ請求数は199%増加し、ユーザー満足度も向上しました。
ECサイトでの改善事例
あるECサイトでは、「商品数が多すぎて探しにくい」という声が寄せられ、検索機能を見直すことに。ユーザーインタビューの結果、「カテゴリが分かりづらい」という課題が明確になり、絞り込み条件を改善。結果としてCV率が大幅に改善しました。
他の調査手法との違いと使い分け
以下に、代表的な3つの調査手法の特徴を表にまとめました。それぞれの強み・弱みを理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。
調査手法 | 特徴・強み | 弱み・注意点 | 向いている場面 |
アンケート | 多くの人から一度に意見を収集できる。傾向や割合が数値でわかる。 | 理由や感情などの深掘りが難しい。回答が表面的になりがち。 | 満足度調査、仮説の検証、大規模な意識調査 |
アクセス解析 | 実際のユーザー行動をデータとして把握できる。 | なぜその行動をとったのかまではわからない。数値の裏にある背景が見えない。 | サイトやアプリの導線改善、A/Bテストの検証 |
ユーザーインタビュー | ユーザーの声を直接聞ける。感情や意図、課題の背景がわかる。 | 対象人数が少なく、結果の一般化には注意が必要。実施に時間がかかる。 | プロダクト初期の課題探索、新機能のニーズ把握、改善のヒント発掘 |
それぞれの手法は競合するものではなく、むしろ補完し合うものです。たとえば「アクセス解析で離脱ポイントを特定 → インタビューで理由を深掘り → アンケートで全体の傾向を確認」といったように、組み合わせることで、より立体的にユーザーを理解できます。
ユーザーインタビューの価値
ユーザーインタビューは、こうした定量データでは見えない“理由”や“感情”を直接ユーザーの口から聞けることが最大の強みです。直感や印象に頼らず、根拠ある改善につなげるための「聞く力」が求められます。
これらの手法は目的に応じて使い分けることで、より深く、立体的にユーザーを理解できます。
まとめ:聞く力を育てることがPMへの第一歩
ユーザーインタビューは、経験を積むことで少しずつ上達していくスキルです。最初から完璧を目指す必要はありません。
たとえば、最初の一歩として社内の同僚や身近な友人に5分ほど話を聞いてみるだけでも、多くの気づきを得られることがあります。
ユーザーの声には、想像していなかった課題や、改善のヒントがたくさん隠れています。その声に耳を傾けることが、良いプロダクトをつくるための何よりの一歩です。
「聞く力」は、PMとして成長するうえで欠かせない土台です。あなたの小さな一歩が、プロダクトを大きく変えるきっかけになるかもしれません。自信を持って、はじめてみましょう。
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