はじめに:聞く前が9割?設計の大切さを知ろう
ユーザーインタビューと聞くと、「質問して答えてもらう」ことがメインのように思えるかもしれません。しかし実際には、インタビューの成功の9割は “設計”、つまり事前の準備にかかっているのです。
「何を聞けばいいのかわからない」「思ったように話が進まない」「相手がうまく話してくれなかった」——こうした悩みの多くは、技術ではなく準備不足が原因です。丁寧な準備を整えておけば、会話の流れも自然になり、ユーザーの本音を引き出しやすくなります。
たとえば、質問の順番を工夫するだけでも、相手の緊張がほぐれてスムーズなやりとりが可能になります。聞きたいことにしっかりたどり着けるのも、設計の力です。
本記事では、インタビュー設計の重要性と基本ステップを、初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。設計のコツを押さえて、自信を持ってユーザーと向き合いましょう。
STEP1:リサーチゴールの立て方
インタビューを始める前にまず必要なのは、「このインタビューで何を明らかにしたいのか」を明確にすることです。これが「リサーチゴール」と呼ばれます。
たとえば、「使いにくさを知りたい」では漠然としすぎています。代わりに「ユーザーが通知機能に気づいていない理由を知りたい」のように、具体的でシンプルなゴールにするのがポイントです。
目的が明確であれば、質問数も整理され、限られた時間を有効に使えます。インタビュー1回あたり、リサーチゴールは1つ、多くても2つまでにしましょう。
まずは、自分が「本当に知りたいこと」を紙に書き出してみることから始めてみてください。
STEP2:仮説の立て方と活かし方
リサーチゴールが決まったら、次は「仮説」を立てましょう。仮説とは、「たぶんこうなんじゃないか?」という自分なりの予想のことです。
たとえば、「チュートリアルが長くて読まれていないのでは?」「価格が目立たず、ユーザーが離脱しているのでは?」といった具合です。こうした仮説があると、どんな質問をすればよいかが明確になります。
仮説を立てておくことで、インタビュー中の質問に軸が生まれ、ぶれにくくなります。もちろん、仮説が外れても問題ありません。大切なのは「仮説を検証するために聞く」という姿勢です。
STEP3:ペルソナの明確化とスクリーニング設計
「誰に聞くか」は、インタビューの成果を大きく左右します。理想のユーザー像からかけ離れた相手に話を聞いても、有益なインサイトは得にくくなります。
そこで大切になるのが「ペルソナ設計」です。ペルソナとは、サービスを使いそうな典型的なユーザー像のこと。たとえば、「30代の会社員で、通勤中にスマホでニュースアプリを見る」といった具体的な設定を行います。
その上で、実際に参加してもらうユーザーを選ぶために「スクリーニング質問」を設けましょう。たとえば、「週に3回以上アプリを使用している」「直近1か月以内に◯◯機能を利用したことがある」など、明確な条件を設定することが重要です。
こうした準備によって、適切な対象者を確実に選び、インタビューの質を高めることができます。
STEP4:質問設計のコツ
質問の内容と順番は、インタビューの深さや質に大きく影響します。ここでは、初心者でも使える質問設計の3つのコツをご紹介します。
1. オープン質問とクローズド質問を使い分ける
オープン質問(自由に答える形式):「この機能、どんなときに使いましたか?」
クローズド質問(選択肢や数値で答える形式):「この機能を週に何回使いますか?」
種類 | 特徴 | 例文 |
---|---|---|
オープン質問 | 自由に答えられる形式で、詳細や感情が引き出せる | 「この機能、どんなときに使いましたか?」 |
クローズド質問 | 数値や選択肢など、事実を確認しやすい形式 | 「この機能を週に何回使いますか?」 |
基本的にはオープン質問を中心に据え、必要に応じてクローズド質問で事実を補足するのが理想的です。
2. 体験ベースで聞く
「最後にこの機能を使ったのはいつですか?」「最初に何をしましたか?」といったように、具体的な場面を思い出してもらう質問を活用しましょう。ユーザーの記憶が鮮明になり、リアルなエピソードを引き出しやすくなります。
3. 誘導しない質問を心がける
「○○は使いにくかったですよね?」のような誘導的な質問は避け、「そのとき、どのように感じましたか?」と中立的に聞くようにしましょう。先入観を与えない質問が、自然な回答を引き出すカギです。
STEP5:インタビューガイド(進行表)の作り方
質問が整ったら、当日慌てずに進められるよう「インタビューガイド(進行表)」を作りましょう。ガイドがあることで、進行がスムーズになり、聞き漏らしも防げます。
基本の流れ(所要時間:約30〜45分)
- アイスブレイク(5分)
- 自己紹介やインタビューの目的説明、軽い雑談などで緊張をほぐします。
- 本編(20〜30分)
- 事前に準備した質問に沿って進めていきます。
- 深掘り(5〜10分)
- 回答の中で特に気になった点を掘り下げます。
- クロージング(3分)
- 感想や補足を聞き、お礼を伝えて締めくくります。
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可能であれば2人体制(進行役+記録役)で実施するのがおすすめです。話すことと記録することを分担することで、集中しやすくなります。
実例に学ぶ:成功したインタビュー設計のケーススタディ
事例1:パモウナ社のWebサイト改善
家具メーカー・パモウナ社では、Webサイトのリニューアルに際してユーザーインタビューを実施。「価格がわかりにくい」「購入事例が見られない」という声をもとに、価格表示と事例紹介コンテンツを新たに追加しました。
結果、カタログ請求数が約2倍、訪問ユーザー数も大幅に増加。インタビューをもとにした具体的な改善が大きな成果につながった好例です。
事例2:QuickBooksの高速UX改善
会計ソフト「QuickBooks」を開発するIntuit社は、AI機能の導入に伴い、2日間で36名のユーザーインタビューを実施しました。
仮説に基づく質問設計と、迅速なリクルート体制により、ユーザーの入力ミスや混乱ポイントを的確に把握。改善施策に素早く反映させることで、UXを向上させました。
おわりに:“聞く前”がインタビューの命
ユーザーインタビューで大切なのは、聞く内容や会話術以上に、”聞く前”の準備です。リサーチゴールを立て、仮説を用意し、質問や対象者を丁寧に設計することで、ユーザーの声が深く響き、的確なインサイトが得られます。
完璧を目指す必要はありません。まずは「知りたいこと」を一つだけ言語化し、それを誰か一人に聞いてみるところから始めてみましょう。完璧なユーザーでなくても大丈夫。小さな一歩が、プロダクトをよりよくする第一歩になります。
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