はじめに
プロダクトマネージャーとして「ユーザーの課題を解決するプロダクトを作りたい」と思っても、何から始めたらいいか迷ってしまうことはありませんか?そんなときに心強い味方になるのが「デザイン思考」という考え方です。
デザイン思考とは、ユーザーの気持ちに寄り添いながら、本当の課題を見つけ出し、それを解決するための方法を考えるアプローチです。専門的な知識や特別なセンスがなくても、基本的なポイントさえ押さえれば、誰でも取り入れることができます。
この考え方は、ITやスタートアップ業界だけでなく、医療や教育、行政などさまざまな分野でも活用されています。だからこそ、プロダクトマネージャーとしても、ぜひ身につけておきたいスキルのひとつです。
この記事では、PM初心者の方にもわかりやすく、デザイン思考の5つのステップと実践方法を紹介していきます。「難しそう」と感じていた方も、きっと一歩を踏み出せるはずです。
あなたの小さな「気づき」が、プロダクトを大きく変えるきっかけになるかもしれません。それでは、はじめてみましょう!
1. デザイン思考とは?
デザイン思考とは、「ユーザーの立場になって考え、課題を見つけて解決策をつくる」ためのアプローチです。ただ機能を追加するのではなく、ユーザーにとって本当に使いやすい形とは何かを探ることから始まります。
たとえば、雨の日に傘をさして片手がふさがってしまう不便を感じたとします。そこで「もっと軽い傘を作ろう」と考えるのではなく、「そもそもレインコートの方が両手が自由になるのでは?」と発想を転換するのが、まさにデザイン思考の視点です。
ここで言う「デザイン」は、単に見た目を美しくすることではありません。人にとっての価値ある体験や仕組みを“設計する”ことを指します。ユーザーによって最適な答えが異なるため、「これが正解」という唯一の答えはありません。
また、デザイン思考は「正しい答えを一度で出す」ためのものではなく、「仮説を立て、試し、学び、改善する」というくり返しの中で答えに近づいていく考え方です。実践の中で身につけていくスタイルなので、PM初心者にもぴったりの思考法です。
2. デザイン思考の5つのプロセス
デザイン思考は次の5つのステップで構成されます:

① 共感(Empathize)
ユーザーが何に困っているのか、どんな思いを抱えているのかを深く理解する段階です。インタビューや観察を通して、表面的な声ではなく「本当の気持ち」や「行動の背景」に寄り添います。
② 定義(Define)
共感して得た情報をもとに、解決すべき課題を明確にします。「検索ボタンが見つけにくい」「設定方法が直感的でない」など、ユーザー目線で具体的な課題を一文で表現することが大切です。
③ アイデア出し(Ideate)
課題に対して、できるだけ多くの解決策を考え出します。ブレインストーミングなどを使って「とにかく数を出す」のがポイント。最初は奇抜に見えるアイデアが後に価値あるヒントになることもあります。
④ 試作(Prototype)
アイデアを形にしてみる段階です。紙にスケッチを描いたり、簡単な画面モックを作ったりして、イメージを見える化します。この時点で完璧を目指す必要はありません。
⑤ テスト(Test)
プロトタイプを実際のユーザーに使ってもらい、意見を聞いて改善点を探します。得られたフィードバックをもとに必要に応じて前のステップに戻り、精度を高めていきます。
この5つのステップは一方向ではなく、何度もくり返して深めていくものです。ユーザーにとって本当に価値のあるプロダクトを作るための、柔軟かつ実践的なフレームです。
3. 代表的なフレームワークを知ろう
デザイン思考にはさまざまな実践モデルがありますが、ここでは代表的な3つのフレームワークを紹介します。
◼ スタンフォード式(d.schoolモデル)
スタンフォード大学のd.schoolが提唱した基本の5ステップ(共感 → 問題定義 → アイデア → 試作 → テスト)モデルです。教育現場でも広く使われており、PM初心者にも最も親しみやすい構成といえます。
◼ IDEOモデル
世界的なデザイン会社IDEOのモデルでは、以下の3つの視点を重視します:
- Desirability(人が望むか)
- Feasibility(技術的に可能か)
- Viability(ビジネスとして成立するか) この3つのバランスを取りながら、実行可能で意味のあるプロダクトを設計していくアプローチです。
◼ ダブルダイヤモンド(Double Diamond)
イギリスのDesign Councilが提唱した手法です。「課題を広く探る → 問題を絞る → 解決策を広げる → 最適案に絞る」という2つの“ひし形”のプロセスをたどることで、思考の整理がしやすくなります。チーム共有にも効果的です。

4. PMとしてどう使う?デザイン思考の活かし方
デザイン思考は、プロダクトマネージャーの実務に直結するツールです。以下のような場面で効果を発揮します。
■ ユーザーインタビューの設計
単に「どうですか?」と聞くのではなく、「なぜそう感じたのか?」を深掘りすることで、共感フェーズの質が大きく向上します。
■ 要件定義の前に立ち止まる
機能の要望が出たとき、すぐに仕様に落とすのではなく「そもそも何のためか?」をチームで考えることで、無駄な開発を減らせます。
■ 紙モックやFigmaの活用
仕様書を作る前に、ラフでも画面を描いて見せるだけで、ユーザーやステークホルダーから具体的な意見が引き出せます。
■ チーム全体でのアイデア出し
PMがファシリテーターとなって、多様な意見を受け止め、プロダクトの可能性を広げる場をつくることができます。
こうした行動はすべて、「ユーザー中心に考える」というデザイン思考の原則に通じています。
5. 実際の事例で理解を深めよう
◼ Airbnb:写真の改善が転機に
初期のAirbnbでは、なかなか予約が入らないという課題がありました。創業者たちはホストのもとに足を運び、写真を撮り直すという“共感”行動を実行。その結果、見た目の安心感が高まり、予約数が大きく向上しました。
◼ 長久手市:虫の多発と生態系
愛知県長久手市では、「虫が多い」という市民の声を受け、ただ駆除するのではなく「なぜ増えたのか?」という問いから課題を掘り下げました。過去の環境施策が原因だったことが判明し、根本解決につながる取り組みに発展しました。
どちらの事例も、ユーザー(住民・顧客)の立場に立って課題を見つけ、仮説と検証をくり返したプロセスが共通しています。
6. まずはここから:PM初心者が試せる小さな一歩
デザイン思考は一気に全部を取り入れようとせず、小さなところから始めてみるのが成功のコツです。
◼ 「なぜ?」を5回くり返す
トヨタ式の課題深掘り手法です。「これが使いづらい」と言われたら、「なぜ?」を5回くり返して本質を掘り下げてみましょう。
◼ 手描きでプロトタイプを描いてみる
紙とペンがあればOK。アイデアを形にすることで、チームとのコミュニケーションもスムーズになります。
◼ 1人ブレストや壁打ちをやってみる
一人でも「どうすればもっとよくなるか?」を考えるクセをつけると、思考の幅がぐんと広がります。
これらはすべて、今日からでも実行できるアクションです。
おわりに
デザイン思考は、プロダクトマネージャーにとって非常に心強い味方になります。ユーザー視点で課題を見つけ、アイデアを形にし、試して学ぶ。このサイクルを大切にすれば、あなたのプロダクトは確実に前進していきます。
「まだ経験がないから…」と遠慮せず、まずは一歩踏み出してみましょう。あなたの“気づき”と“行動”が、きっと誰かの「これが欲しかった!」につながるはずです。
コメント